直球感想文 本館

2018年 更新中
by vMUGIv
カテゴリ
以前の記事

森鴎外の子供たち その15

::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::
フランス留学中の森類から日本の家族への手紙 ※複数から抜粋

パリ中、大人・老人・子供・片輪を見て
笑ったり指を差したりする下等者は一人もいません。
お母さんなんかには非常によろしい。
パッパが西洋人は上等だと言ったが本当ですよ。
ほんとにほんとにお母さんをリュクサンブール公園に連れて行きたく思う。

日本という国は何もしないでノンキに暮らしていても、
いつ殺されるか知れないような一種の気分
(共産党・人殺し・空き巣・交通・その他何々々々々)が絶えずあって痩せる一方ですが、
パリにはそんな気分はちっともちっともありません。
我々が異国人だからではありません。人のことなんか気にする人は一人もない。

今すごく素晴らしい音楽が上の部屋からもれてくる。
手紙を書くのをちょっとやめて類式ダンスをした。
ああ、芸術の都パリよ。また始まった、素晴らしい音楽が。
とても手紙を書く気になれない。このまま死にたいような音楽だ。
一生の思い出によく聞いておく。一生に二度はパリに来られまい。
こんな国だから芸術ができるのだ。東京は砂だから、何も育てる力がない。
パリは土だ、春の。

僕のためにパリという街ができたみたいに、すべて神経に合う。
実に実にパリは大好き。杏奴姉さんにも僕にもピタピタに合う。
幸福、二人とも元気なり。

日本という国は頭の上に細い糸で刀をつるしているような、
いつもビクビクビクビクしているような国だ。
パリはその反対で、
労働者は酒を飲んで女と踊り場に行く土曜日と日曜日の夜を待ち焦がれている。
暇さえあれば通る女にウインクして、ほがらかに太陽を浴びている。

パリは僕のために良いところです。
死ぬまで展覧会に絵を出さず、名を売らずに、ただ描いていればよいのです。
死ぬまで無名の学生でも、誰一人気にする人もいませんから。
裸体で外に飛び出しでもしない限り、人が気にしません。
この良さを一度お母さんに味わっていただきたいと思います。
「どちらへ、何銭持って、どんな心理状態でお出かけですか」
知っている人に道で会うとこんな感じで寄ってくる日本人を思い出して、
今の自分の幸福をはっきり知ります。

茉莉姉さんの三田文学が出て、パッパのことがよく書ければいいがと心配している。
茉莉姉は杏奴姉を好きで褒めるつもりで良く見せるつもりで、
杏奴はルルーのごとく可愛らしい人などと人に言うと
大変な自惚れになるから用心すべし。
非常な好意で誰よりも困ることをするのが茉莉姉さんだから、そのつもりで頼む。
茉莉姉は喜ぶとろくなことをしでかさないから用心用心。

杏奴は海に飛び込まないでおくれ、類はなるべく飛び込んでおくれと書いてあった。
類は杏奴の小使のつもりで洋行費を出したのだから気をつけておくれ、
横浜に船が着く時はもう用が無いから海に飛び込んでおくれ。
杏奴は高木さんと茉莉と私と宿の若い者と運転手とで守るから。
類は誰も助けてくれぬから、安心して死んでおくれと書いてある。

::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::
[PR]
by vMUGIv | 2012-02-15 00:00 | ヒト
<< 森鴎外の子供たち その16 森鴎外の子供たち その14 >>


お気に入りブログ
検索
記事ランキング