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by vMUGIv
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三島由紀夫 その17

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三島の元書生・作家 福島次郎

『禁色』に出てくるルドンは
実際にあったブランズウィックという店をモデルにしており、銀座5丁目裏にあった。
三島さんはそこの客として出入りするようになり、
今までの孤独で悶々としたソドミストから大勢の同好の友に囲まれる有名人になる。
それまでがあまりに密閉された世界で育ってきた三島さんだけに、
さぞかし有頂天にさせられたであろう。
三島さんは男色の世界に出入りするようになってから初めて恋をした。
悠一という青年、人々は悠ちゃんと読んでいた。
悠ちゃんは体格も髪の形も普通の感じで、顔立ちは整っているが
いかにもさっぱりとしたスポーツマン風の爽やかな風貌だった。
この世界にありがちな中性的な湿度がまったくない、やんちゃな男の子という感じだった。
だからこそ悠ちゃんはこの世界で引く手あまただったのだろう。
当時から愛されることに慣れ経験豊富だったに違いない。
社会的にはともかく、この世界ではぽっと出の純情な三島さんとでは勝負にならなかった。
三島さんが酔っていたのもわずかの間、悠ちゃんから捨てられた形になるのである。

内藤武次郎さんは、三島さんにとっては唯一の相談相手であった。
昭和20年代、内藤さんは銀座で<陶李苑>という大きな陶器の店を営んでいた。
悠ちゃんから愛されていないことがはっきりした時、
三島さんは内藤さんの家へ来てすべてを打ち明け涙ぐんでいたという。
「根が純情だから叱られた子供みたいにソファに長いことうつむいちゃって目を拭いてんの。
あんな男にフラれたぐらいで。でも深刻そうだし、このまま家に帰したら
途中で自殺でもするんじゃないかと思ってウチに泊めることにしたよ。
僕が御両親に電話して。人のウチに泊まるなんて、その時が初めてだったらしいよ。
悠ちゃんにフラれてしょげているところに君が現れたっていうことさ。
それも普通の大学生がやって来たんだから、
そりゃ三島さんが僕のところに一番に見せに来る気持ちはわかるよ」
三島さんに初めて会い、そのまま内藤さんの家に連れていかれた時の私には
そんな事情はわかろうはずもなかった。
坂を登り切った場所にそびえ立つ木造二階建てが、内藤武次郎さんの家であった。
大きな番犬、高級料亭の女将のような女性、所狭しと置かれた骨董美術品、
それらすべてに私は圧倒された。
「こちらさんは地方からそのまま直行してきたような人だね。
誰かさんとは正反対。ウブとウブとで、おたくたちはこれからがお楽しみ」
内藤さんはロイド眼鏡をかけた角ばった大きな顔を横にふりながら言った。
隠語が混じる内藤さんの早い話しぶりの意味はわからなかったが、
ユーモアに富んだ心優しい人物だという印象を受けた。

「そろそろ休もうか」 三島さんはひどく遠慮深げに言ってこちらを向く。
私がうなずくと、私の前まで来て椅子から立つようにと合図をした。
私が立ち上がると、三島さんは正面から私を抱きしめて頬ずりをした。
そして息づかいを次第に荒くしていった。
だが、私には興奮はまったくなかった。
男女を問わずそれまで性交渉の経験などまったくなかった私である。
三島さんは身悶えし、小さな声で私の耳元に囁いた。
「僕・・・幸せ・・・」 甘え切った優しい声だった。
今まで聞いてきた三島さんの声音とはあまりに違う。
私の身体よりもずっと小さく細い三島さんの身体は、
私の両腕の中で柔らかくぐにゃぐにゃになっていた。
私は観念して着ているものを全部脱ぎ、ベッドに仰向けに寝て目を閉じた。
電灯を消した三島さんも裸になって、
全身をおこりのように震わせ一途な勢いでのしかかってきた。
目を固く閉じている私の耳に、三島さんの激しい咽び泣きが火花のように飛び散る。
やがて甘えわめく子供のような大げさな声をあげて三島さんが動かなくなった時、
私は自分の股間の奥に収めきれず、太ももの付け根からゆっくりと
一筋の熱いものがあふれ出て臀部の方へ流れ落ちるのを感じていた。

初めてのホテルでの夜、
三島さんだけが激しくそうなっただけで私の身体には何の変化も起きなかった。
私のものはまったく用を果たさず、逆に凹型になっていった。
三島さんはそんなことにかまうのかかまわないのか、
私が裸になって仰向けに寝ると暗がりで自分も裸になるや、
獲物を得た獣のように堰が切れた気配で胸毛に覆われた薄い胸と細い四肢を震わせ、
泣き音をあげ続けながら一途にことを行い終わりに達したものだ。
今にして思えば、三島さんの技巧も言葉も抜きにした青年らしい直情径行ぶりが、
私としてはせめてもの救いだった。

東京のホテルでは死んだ魚のようにしていてもそれなりに済んでいたのだったが、
この避暑地での夜は、
三島さんもどうにか私が性的に反応するようにあれこれ工夫しはじめていた。
一夜、二夜、三夜を経ても、三島さんの律儀で必死な施しにもかかわらず
私にはなんの変化も起きなかった。
「君の性欲というのは、
大きな岩かなんかの下敷きになっていて、動けないでいるみたいだね」
昼は天国、夜は地獄が続いていくのだったから、感謝もいつか帳消しになり、
自分では気づかぬながら三島さんへの対応も冷ややかなものになっていったに違いない。
1週間目の夜のこと、三島さんは初めて私を裏返しにしてことを行おうとした。
「僕はバックというやつは好きじゃない。僕は向き合って顔を見なけりゃ嫌なんだ」
と以前三島さんは言ったことがあるが、この夜は違っていた。
相手の御機嫌ばかりうかがっていられないという、怒りさえ混じった強い気配があった。
三島さんのものが的を外れながら、私の臀部の内側をひどくあわてる風に
擦り動くだけなので、ただくすぐったかった。
この我が格好、三島さんの真剣さと私の幼児めいた一人騒ぎのちぐはぐさから、
こうまでして三島さんについて行こうとする自分の哀れさ、滑稽さが
一挙に胸元に突き上がってきて、私はうつ伏せのまま肩をゆすって笑いだした。
畳の上に三島さんの白いブリーフがあった。
そのブリーフを掴んで、私からはねのいた三島さんに向かって思い切り放り投げた。
ブリーフは三島さんの毛の濃い裸の胸に当たり、すでに萎えてしまった股間の上へ落ちた。

三島さんは伊豆にまだ滞在する予定だったのに、翌朝すぐに東京へ帰ると言い出した。
そして朝からトランクに荷物を詰め始めた。三島さんは額に汗をにじませながら、
慣れぬ手つきで懸命に荷造りをしていたが、私は籐椅子に腰かけたまま平然と眺めていた。
心の中では、手伝わなくてはならぬと思う。
あれほど憧れた作家が、最も似つかわしくない力仕事で精を出しているではないか。
詰め方に迷いながら、困りながら。革紐の結び方さえおぼつかない。
そこに私の手伝いを期待している気持ちが見えた。
それがわかっておりながら、わかればこそ、
その時の私は冷ややかに三島さんを見ているだけだった。
これでこの夏が終わった。
この数ヶ月間私を夢中にさせた僥倖のすべてが終わったという思いがあった。

三島さんは白いズボンも一気に脱ぎ、椅子の背に放り投げた。
白のふんどしをつけているだけで、15年前の虚弱体質な気配は微塵もなかった。
「おい、福島君、尻に触ってみろよ」
「はあ」
「腕や胸はともかく、尻の肉をここまで硬くするのは大変なことだぜ」
三島さんは腰のふんどしを軽くたたいてみせた。
「これ、はずせるものならはずしてごらん」
いよいよという覚悟の気持ちで三島さんの後ろに回って試みたものの、
ほどく順序さえわからない。
「君、こんなもの締めたこともないな」 
得意気な笑い声でここをこうしてと教え、私にはずさせた。
懸命に三島さんの首から胸、腹に、キスを浴びせかけていった。
三島さんはこちらが驚くほどの甘えた子供のような声をほとばしらせた。
脳の奥で願いの呪文を唱えているが、やはり私の方は駄目のようだった。
三島さんのセックスの形は昔とは違っていた。
上から覆いかぶさってきてただひたすらに掘削作業を行って終わっていた26歳の青年
とは異なり、身体は見違えるように灼けてたくましく男臭くなっているのに、
母親から抱き上げられる乳飲み子のようにのけぞり、
目は閉じたままくねって背をゆさぶらせていた。
三島さんは性的にも受け身を演じたかったのではという気がする。
世に言う<ドンデンが来た>というやつである。
ひょっとしたらドンデンが起きた頃から、
三島さんは外向きにますらおの道に目覚めはじめたのではないだろうか。

内藤さんの手料理を食べながら、数時間三島さんについてしゃべり合った。
青年の頃から親兄弟にもしゃべれないことを三島さんがみんな打ち明けてきた相手だから、
死の本当の原因を一番知っている人ではないかと、私は内藤さんの意見が聞きたかった。
しかし内藤さんは、「三島さんは死にたかっただけよ。ただ、それだけ」と言うばかりだった。
「ああいう風に派手に死ねたんだもの、本人はさぞ満足してると思うよ。
自分の腹に刃物を突きつけた時、きっと嬉しかったと思うよ。
あの人の長年の夢が実現したんだもの」
1年ほど前、三島さんと関係があった青年が内藤さんに三島さんになんとか
取り次いでほしいと頼み込んできた。よく知っていた子なので気軽に引き受け、
いつものように三島さんの書斎の直通番号にかけたが、
あいにくすぐ脇に夫人がいたのである。
次の日に三島さんは怒って電話をかけてきた。
「あんな内容の電話をかけてもらっては困る。これからはかけないでほしい」
内藤さんも頭にきて
「こちらも気が利かなくて悪かったけど、頭ごなしにそりゃないでしょう。
これまで長い間おつきあいいただているけど、どこの何様だか存じませんが、
電話の一つぐらいでそんなに偉そうに人を叱りつけるような方と
親友になった覚えはありません。これからは一切電話をかけません」
と言い返して電話を切ってしまった。
数日後一席もうけさせてほしいと手紙が来て、
内藤さんは気が進まぬながらその接待に応じて帰ってきた。
「一応おさまって別れたけど、その後は一度も会うことはなかったね」

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by vMUGIv | 2015-03-17 00:00 | ヒト
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