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by vMUGIv
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大正三美人 九条武子 その2

◆明治20年10月20日 武子誕生
◆明治25年 05歳 兄光瑞の婚約者九条寿子10歳が大谷家へ
◆明治27年 07歳 武子京都師範学校付属小学校入学
◆明治31年 11歳 兄光瑞&寿子結婚
◆明治32年 12歳 義姉寿子の裏方教育の御学友として武子もともに学ぶ
◆明治36年 16歳 シャムの皇太子と見合い、父光尊53歳没、兄光瑞就任
◆明治38年 18歳 義姉寿子が仏教婦人会総裁に、武子が本部長に就任


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日本画家 上村松園 

九条武子夫人は松契という雅号で私の家にも訪ねてこられ、
私もお伺いして絵の稽古をしていられました。
あんなきれいな方は滅多にないと思います。
綺麗な人は得なもので、
どんな髷に結ってもどのような衣装をつけられても皆が皆よう似合うのです。
いつでしたか一度丸髷に結うていられたことがありました。
たいていはハイカラで髷を結うていられることは滅多にないので、
私は記念に手早く写生させてもらいましたが、誠に水もしたたるような美しさでした。
『月蝕の宵』は、その時の写生を参考にしたのです。

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上村松園の息子 上村松篁

武子さんがお母さんのところへお越しになった頃を存じてますよ。
それは美しいお人でしたな。それに外見と違って、少しも気負ったところのないお人でしたな。

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武子の友人 柳原白蓮 

※互いを「たあさん(武子)」「あきさん(白蓮の本名燁子)」と呼び合う仲だった。

〔白蓮事件の際〕さすが人目をはばかって自分自身では来られませんでしたけれど、
女中を使者にして幾度私の隠れ家を見舞ってくれたことでしたろう。
そのたび親切な見舞いの品々を添えられたのでした。
普段着の着替えもなかろうからと言って、
銘仙のこれは自分に仕立てたのだから寸法は合うまいけれどと言って、
あの人は背の高い人なので立褄の二尺一寸もあるような綿入れ、
それにメリンスの美しい模様の長襦袢を添えてありました。
また洗濯物なども思うに任せぬことだろう、
遠慮なくこの使者に持たせてやるがいいとも言うのでした。
実にこんなにまで心を込めてくれた人は、私の友達にも兄姉にもありませんでした。
ましてその当時世間からさんざんに悪口されている私の所へ、
誰がそんな優しい心を向けてくれる人がありましたろう。

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武子は西本願寺法主大谷光尊伯爵と側室松原藤子の間に生まれた。
正妻枝子は病弱で人前に出ることもほとんどなく、
光尊の7人の子供のうち6人は側室藤子が生んだ子であった。
武子の細身の長身も、並外れて手が大きかったのも、藤子ゆずりであった。

兄たちに囲まれて育った武子はお転婆で、
人形遊びよりも兄たちとチャンバラ遊びをすることを好んだ。
乗馬や木登りも得意で、
手が長くスルスルと木に登る武子に兄たちは「手長猿」というあだ名をつけた。
また物真似が得意で、冗談が上手く、家族兄弟はいつも笑い転げていたという。

兄光瑞には嫌いなものが6つあった。蛇と雷、これは単に苦手なもの。
囲碁と将棋、これは時間を浪費するから。
そして、女と老人。女は愚痴を言い、老人は過去を語るから。
光瑞は特に女のおしゃべりを毛嫌いした。女々した旧式の女を好まなかった。
光瑞の眼鏡に適ったのは妹の武子だけであった。
美しく、好奇心が強く、ユーモアがあり、自分の意見を持っている人物だったからである。


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九条武子

物心ついた頃 私の住まいは父母の元から長い長い廊下続きで、
大きな2枚の杉戸のあった入口を覚えている。
北の御方と呼び慣れておった一棟の家が子供達雑居して入れられておるところ、
小さな丸髷を頭に乗っけたお婆さんで何でもできる怖い女中が
全権を委任されておったという形で、この女中に叱られた時の怖さは今でも忘れない。
私の得なことには末の子であったため、父は厳格な中にも破格に私を可愛がったものらしく思う。

近傍の学校では友達が悪いといって、
御苑内の近く現府立第一高等女学校になっているところにその時分は付属小学校があって、
家から約一里ほどもあろう道を俥で通って行った。
今の女学生の燕のような軽装は夢想だにつかぬ。
髪は大きな輪の稚児髷に上げて、友禅縮緬の長い袂に、
袴だけは東京から取り寄せてはかされておったが、
それがまた自分一人なので肩身の狭い思いをした。
学校の主義として綿服着用というお達しがあってから、
一重ねの二子縞の着物と羽織を作ってもらった。
それでも式日には家の者が許してくれないで、
紫と薄紅のぼかし染めに総縫いの振袖などを着て緑と濃紫の精巧の袴をつけて行った。
髪には親譲り姉譲りの銀の花簪や鼈甲の櫛、
稚児髷の後ろへ長い銀の房の先に鈴のついて大きな平打ちを一本挿すに決まっていた。
さぞ人目いぶかしゅう見られたことであったろう。

男の子供達は大きくなったので、別の館に移されそれぞれ中学に通うようになった。
長兄が西洋へ立ったりしてにわかに寂しくなったというので、
私は義姉の寿子が住んでおった百花園という建物に移された。
古い習慣と一種妙な空気に包まれた家庭では、庭へ出るさえ一人では許されなかった。
わけても下男達は行き違う場合、身を隠すか背を向けてうずくまるのであった。
花ひとつ折ってほしいとて植木屋などに口きくことはできなかったし、
今思うとずいぶん不自由千万な境涯だと言わねばならぬ。
義姉は18、私は14、世は楽しいことより他に何も知らなかったが。

父は自分の13の歳に大病を患ってからずっと薬にばかり親しむようになっておった。
桃山の三夜荘に行って1ヶ月も2ヶ月も本邸には帰らないことが続いたりした。
上の兄の帰朝期もほぼ予定されて、新邸の錦華殿はノミの音が激しく勇ましく響くようになった。
もの珍しい西洋館が日に日に形造られてゆく。付属の日本建築も工事が同時に運んでいった。
お清所はここ、呉服所はかしこの間、ここを錠口にしましょう、
たあ様〔武子〕のお部屋は2階の間がいいでしょうと、
義姉は私を連れて夕方大工が帰った後必ず見に行くことを日課のようにしておったし、
また父に報告するのも二人の楽しみであった。

明治35年も暮れて行く冬はわけても寒かったが、年が改まっても寒さは増すばかりであった。
正月4日シャム皇太子殿下が御来朝になって本願寺へおなりになるということで、
病身な父は病をおして準備万端手落ちのないようにと伏見の別荘から帰って来たが、
とうとう風邪をひいて寝込んでしまったのが元で持病が亢進して、
月の半ばついに寂光の都へ帰ったのである。
錦華殿のみは先の日のままにノミの音が力強く聞こえておったけれども、
義姉は毎日のようには見に行かなかったし、
自分も何か張り合いがなくなったような気になっておった。
欧州からの帰り道であった兄は、インドにおける仏蹟探検を中途にして急遽帰朝した。
新しい新邸に入ったとて、誰一人祝辞を述べる者もない悲しみの中に取り巻かれておった。
長い旅に断腸の思いを抱いて帰ったであろうと思う。
一山の責任と尊敬とを担って、若き兄は父の遺志を継いで立った。

年変わって日露の戦役が始まった。
耳に聞く話、目に見る物、すべてが変わってきて、何も知らなかった人形の夢は覚めた。
若い力の目まぐるしい活動が始まって、
私の天地は夜が昼になるよりももっと激しく展開したのである。
活き活きした光と自由に投げられて、錦華殿に人足繁く、電話の鈴は鳴り続ける。
兄は国家のため法門のため王法の奉仕に尽瘁し、
義姉は自ら思い立って仏教婦人会のために活動したのもその頃であった。
かくして私の幼い時代が過ぎた。

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シャムの皇太子スル・ワジラウッドが東本願寺を訪問したのは武子との見合いのためであった。
シャムと日本の末永い友好のため日本の名家の姫を妃に迎えたいという依頼があり、
武子に白羽の矢が立ったのである。
西本願寺に打診すると父光尊も乗り気で、明治36年01月03日の見合いとなった。
しかし直後に光尊が急死したことや、
シャム側が日本人を妃に迎えることに国内の賛成を得られないことから立ち消えとなった。


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左 義姉寿子   右 武子
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by vMUGIv | 2015-02-05 00:00 | 大正
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