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by vMUGIv
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谷崎潤一郎 その14

★谷崎の義理の息子の嫁 渡辺千萬子 『瘋癲老人日記』颯子のモデル
1931- 昭和6-


■夫 渡辺清治 根津清太郎&松子の子
1924- 大正13-


●たをり


■父 開業医 高折隆一


■母 日本画家橋本関雪の娘 妙子


●千萬子
●八洲子


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谷崎から千萬子への手紙

昭和33年10月13日
トレアドルパンツの似合う渡辺の千萬子はダリア摘みに出でたり
君に関する歌がいくらでもあとからあとから出てくるので、
小説の仕事が進行しないで困っています。

昭和34年1月20日
僕は君のスラックス姿が大好きです。
あの姿を見ると、なにか文学的感興がわきます。
そのうちきっとあれのインスピレーションで小説を書きます。
東京でいろいろ買いたい物がある由、僕は自分の物を買うより楽しみです。
遠慮なく僕をスポンサーにして下さい。
僕はそれをこのうえなく光栄に思い、かつ喜びにします。

昭和34年2月16日
あんな風に時々重子さんにはビックリさせられることがありますが、
そういうところにあの人でなければ見られない面白味もあり長所もあるので、
私は困ることもあるが芸術的には惹きつけられることも多々あります。
なかなか複雑な女性です。
大小のばぁばが恵美子のことをあなたに隠すのは、
あなたに比較して恵美子があまり劣りすぎるからです。
いずれ遠からぬ将来には谷崎家も渡辺家も
完全にあなたに支配してもらうようになるでしょう。
私は私の崇拝するあなたに支配されるようになることをむしろ望んでいる者です。
つまりあなたは鋭利な刃物過ぎるのです。
私はむしろ鋭利な刃物でピシピシ叩き鍛えてもらいたいのです。

昭和34年3月16日
私は恵美子のことにはいつも全然タッチしません。それというのが、
私は彼女が愚にもつかないあんな仕事をしていることに心から不賛成だからです。
親や叔母たちがもう少し若い時から躾け方に意を注いだら
あんな風には育たなかったろうと思うと、私は腹立たしくもまた不憫にも思います。
私は彼女を憎む気はありませんが、
あれで世間が済んでいると思っていると不愉快に感じるのです。
彼女が女学校時代には毎朝毎朝出かけるのを嫌がり、
私がいつも怒ったりすかしたりしてやっと出してやったものです。

昭和35年12月3日
今度熱海へ来られる時、最近の君の写真を一枚持ってきて下さい。
なるべく全身、スタイルと顔のよく映っているもの。書斎に立てておくつもりです。

昭和35年12月5日
君の顔は近頃いかにも若奥様らしくふっくらと丸みができ、前よりいっそう美しくなりました。
それでなおさら写真が欲しいのです。和服でなく洋服のにして下さい。
スラックスならさらに結構。

昭和36年1月19日
洋服の写真はおめでたが済んでからゆっくり撮って下さい。
女は子供を二人ぐらい生んだ時が最も美しいと言います。
東京の商店から孔雀の扇を送らせます。特別に作らせたのです。
少し値段が高すぎたので、誰にも内緒で送りました。

昭和36年1月25日
僕は君のためならどんな高価な物でも高価とは思いません。
そんな御遠慮は御無用です。
ただもっともっと高価な物を買ってあげられないのを残念に思うだけです。
いろいろのスタイルの写真を撮って下さる由、このうえなく楽しみにしています。
先日の写真もそっと取り出して眺めています。

昭和36年7月18日
ちょっと豪華なソファベッドを作りました。
あんまり立派にできたので、くだらない客に寝てもらいたくない気がしています。
最初にこの上に寝る人は君であってほしいと思っていたのでした。
君はお初をしてくれるまでは、このベッドには誰も寝かせたくありません。
たをりに君の代理をさせるのも、できれば私は嫌なのです。
ばぁばたちはそうしようかと言っていますが、ママから止めておいてくれませんか。

昭和36年7月19日
今月末頃まで恵美子が赤ん坊をつれて熱海に泊まりに来ることになっています。
私はその間逆に東京へ泊りに行き逃げ出します。
しかし恵美子は緞子のベッドには寝かせません。
是非とも君にお初をしてもらって縁起を祝いたいのです。

昭和36年8月6日
なんとなく私はそんな気がしました。もしそうならば、
今後私にだけは何も隠さず気持ちを打ち明けて言って下さい。
私はどんなことでも君の言葉通りに絶対服従します。
気にもはなにか他人を服従せさずにはおかない威力のようなものがあります。
ばぁばたちには、君に迷惑がかからぬようにうまい具合に話しておきます。

昭和36年8月10日
私は観世家の両親たちも栄夫も嫌いではありません。
ただ栄夫の妻〔恵美子〕だけが困りものです。
それは一方に君のような人がいて自然比較対照され、
その優劣があまりハッキリ見えすぎるせいもあります。
彼女が栄夫のような夫を持つことができたのはまったく偶然にすぎませんが、
せめてもの幸せです。

昭和36年9月15日
この間の現金輸送はおばあちゃんたち二人とも寝ている間に投函させましたから、
誰も知りません。
私はあなたと小さいおばあちゃん〔重子〕が同じ程度に好きで尊敬しています。
二人は両極端で反対なところが好きです。
家内は別ですが、他にこの世界中でこの二人以上に好きな女性はいません。
この二人が自分の家庭にいることはなんという幸福かと思っています。
二人が仲が悪いことは必ずしも悲観しません。性格上当然でやむを得ません。
私がせいぜい緩衝地帯の役をしますから、何でも構わず私には話して下さい。
二人とも私にとってはオールマイティの存在です。貴重品の気がします。

昭和36年9月29日
扇子を一つ送りましたが届きましたか。
ブローチのことも忘れてはいません。ミキモトへ行く時間がなかったのでそのうち送ります。
東京へ移住するくらいなら京都へ移りたいと秘かに考えていますが、
おばあちゃんたちにはまだ話しません。
いい口実を考えるために、機会がうかがっているところです。

昭和37年3月4日
額がお気に召して結構です。あれを書くには家内に見せないように隠れて書きました。
「千萬子に書くなら恵美子にも書いてやってくれ」と言われるのが嫌だったからです。
第一恵美子では歌が浮かんで来ませんからね。

昭和37年3月8日
御都合つき次第、一日も早くおいで下さい。
「この家を飛び出してまさかノコノコと伯父様の前へ現れるわけにはいかない」
とありますが、そんな水くさいことは言わないで下さい。
私はあなたとどんな関係になっても絶対に交際を続けていきます。
万一そんなことがあったら、むしろ自由に交際ができて嬉しいと思います。
ともかくいつもだけお金は送っておきます。家人たちは知りません。
これはほんの旅費だけです。あと必要ならこちらへ来てから言って下さい。

昭和37年7月17日
写真さっそく送って下すってありがとう。ここに封入してある2枚を拡大して下さい。
どちらもこの4倍ぐらいの大きさにして下さい。横向きの写真も願います。
『千萬子百態』という題にして、君一人だけのアルバムを作りたいと思います。

昭和37年7月21日
写真引伸ばし代金、忘れないうちに送っておきます。
ある人から「君には誰かブレインがついているんじゃないか。
でなければ近頃の作品のようなものは書けそうもない」と言われました。
そのブレインが一人の若き美女であることを知ったら驚くでしょう。

昭和37年8月10日
この頃私の書くものすべて君を頼りにしすぎ、
君に見てもらわないと不安を覚える癖がついたようです。
むしろ完全に君に寄りかかってしまった方が安心ではないかとも思います。
どうせブレーンがあると思われるくらいなら。

昭和37年8月17日
文章上のことも是非注意して下さい。もう少し滑稽味を加えて書いてはいけないでしょうか。
この間あなたが履いていた靴、あれを履きこなせるような品位ある足は滅多になし。
今度京都へ行ったら、あの靴を履いたあなたの足をもう一度ゆっくり拝ませて下さい。

昭和37年8月23日
たをりに2万円御褒美に与えて下さい。あなたはあとの5万円をお使い下さい。
この分はおばあちゃんたちは知りません。
いろいろの教授代と思えばこれでも足りないくらいです。
なるべくたくさんという話でしたが、足りなければ言ってきて下さい。

昭和37年9月2日
私の夢はこの間の靴よりももっと洒落たもっと高級な、
あなたでなければとても履けないような素晴らしい靴をこしらえて、
あなたの足がそれを履いているところを見ることです。
今度東京へいらしゃったらこしらえる気はありませんか。宝石入りか何かにして。
あるいは室内履きの方がいいかもしれません。うんと贅沢なものにして。

昭和37年9月15日
家庭の問題に限らず、
広く社会のこと政治上のこと文学上のこと経済上のこと美術上のこと、
すべてあなたの意見が的中するので
それに背いてはならないことが改めてよくわかりました。
今後はなにごとも私の命令するつもりで御遠慮なく頭から高飛車に言って下さい。
私は崇拝するあなたの御意見なら喜んで聞きます。あなたはオールマイティです。
重ねてここにあなたに従わなかったことに御詫びを申します。

昭和37年11月7日
翡翠の細工費15万円と伺いましたから、中央公論社から為替でそちらへ直送させます。
おいでになる度にお小遣いを差し上げるのはお気に障るようですから差し控えますが、
必要の時は御遠慮なく御用命下さい。
私はその方が嬉しいのみならず、光栄に思っています。

昭和37年11月10日
熱海においでになる度にわずかばかりのものを差し上げて、
あなたから御礼を言われると私の方も照れるのです。
これからはハンドバッグの中などへ黙ってそっと入れておき、
あなたも受け取って知らん顔をしていて下さるわけにはいかないでしょうか。
あなたに恥をかかせるような方法で麗々しく差し上げていたのは、私の不行届きでした。
黙って受け取って知らん顔をしていて下さればお互いに気持ちがいいと思いますが、
いかがでしょうか。

昭和37年11月29日
私はあなたを少しでも余計美しくするのが唯一の生きがいです。
ここに小切手を封入いたしました。お礼の言葉は今後一切おやめ下さい。
当然のこととして黙っていて下さい。でないとあなたらしくなくなります。
私に無理を言って下さるくらいの方が嬉しく思います。
ポリオについての御注意ありがとう。
なんでも君の予言の通りになることがまた一つ証明されました。

昭和37年12月4日
人は誰でも欠点がありますから、あなたも始終その点を反省しておられるのは結構です。
しかし小生はあなたを崇拝する気持ちの方が強いので、
あなたの欠点が目につかないのです。
67歳の今日になっても
小生がなお創作力を持っていられるのは、まったくあなたのお蔭です。
晩年に及んでこういう女性に巡り会うことができたというのは、
まことになんという幸福でしょう。
あなたに関係のないことを書く場合でも、あなたの存在があなたの影響が絶対必要です。

昭和37年12月10日
『台所太平記』の末尾、さっそくあなたの御指摘に会いギクリとしました。
今後もどうかドシドシ活を入れて下さい。
あなたに厳しく叱りつけてもらうことが是非必要だと思います。

昭和38年1月11日
いろいろ将来の計画など考えてあなたの御意見を聞きたいと思っていたのですが、
今度は二人きりで話す機会がなくて残念でした。
あなたのお手紙だけを集めて『千萬子の手紙』というような単行本をいずれ出したいです。

昭和38年1月23日
毎日の賞をもらいましたので、わずかばかりですが3人宛に封入いたします。
家内に家計不足だからと言われて50万円取られてしまいました。
なお別に10万円同封いたしました。これはあなた様に使っていただきます。
『瘋癲老人日記』に対する賞なのですから、
100万円全部あなたがお取りになるのが当然かもしれませんが。

昭和38年2月1日
お金のことあなたに直接話すのは失礼かもしれませんがお許し下さい。
ミンクのこと家内たちに知れると少し具合の悪いことができましたので、
ちょっと待って下さい。
私は20万円全部でも、あなたのためなら喜んで出します。もっとでも出します。
しかしどうしても家族たちに勘付づかれる理由があります。10万円でも具合が悪いのです。
何か勘付かれないようなうまい方法を思いつくまで待って下さい。
私はなんとかしてあなたがミンクを着たところが見たいのです。
今のところまず5万円のストールを作ってみてはどうですか。
5万円ならすぐにでも送ります。それくらいは知れても差し支えありません。
どうかくれぐれもお許し下さい。

昭和38年2月6日
夕方から山王ホテルに行き、皆と食事を共にします。
15日は駅に着いたら真っすぐ熱海ホテルにおいで下さい。
私はそちらで待っています。夕刻まで二人きりでゆっくる話したいのです。
あなたの仕事のこと、私の家庭のこと、いろいろ山ほどあります。

昭和38年6月22日
一度あなたに何かの刺激を与えてもらったら、今の10倍も物が書けると思っています。
沓の刺激でも結構です。

昭和38年8月21日
御手紙かたじけなく拝見。何度も何度も押し戴いて読みました。
先日は梅園ホテルで2日間も他人を交えずお話を聞くことができ、
いろいろ教えていただくことができました。
こんな嬉しいことはありませんでした。一生忘れられません。
これからもああいう機会を与えて下さったら、どんなに貴重な刺激になるかしれません。
ことにあなたの仏足石をいただくことができましたことは、
生涯忘れられない歓喜であります。
決してあれ以上の法外な望みは抱きませんから、何卒たまにはあの恵みを垂れて下さい。
本当に活を入れていただいて、少しは良いものが書けることと張り切っております。

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谷崎と千萬子
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谷崎とたをり
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by vMUGIv | 2011-04-14 00:00 | 大正
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