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by vMUGIv
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岡本かの子 その2

◆苗字帯刀を許された豪商の娘として東京青山別邸で生まれ、神奈川川崎本邸で育つ。
◆13歳 跡見女学校入学、兄大貫晶川と二人で女中まで付いた気ままな下宿生活を送る。
◆18歳 跡見女学校卒業。
◆19歳 兄大貫晶川の文学仲間谷崎潤一郎らが大貫家に出入りする。


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夫 岡本一平

その画学生〔一平〕は彼女のどこに陥ち込んだのだろうか。
その寂しく美しい容貌、スズランの匂いのする体臭、女族長のようなガッシリした体格。
しかし画学生がその横着さをもってしてものっぴきならずさせられたのは、
彼女の帯びている何としても癒しがたいと思われる憂愁寂寞の感じであった。

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作家 谷崎潤一郎

僕は兄貴の大貫晶川と高等学校が一緒だったし、
あそこの家にも泊まったりなんかしたんだけれども、嫌いでしてね、かの子が(笑)
お給仕に出た時も、一言も口きかなかった。後で兄貴に失敬な男だと言って
非常に怒ったそうですよ。僕は嫌いで、話したことはなかった。

学校は跡見女学校でね。その時分に跡見女学校第一の醜婦という評判でしたね。
実に醜婦でしたよ。それも普通にしていればいいのに、非常に白粉デコデコでね。
一平と一緒になってからもね、デコデコの風してましたよ。
着物の好みやなんかもね、実に悪くて。一平がなぜこんな者をもらったんだろうねって
陰で悪口を言ったんですよ、木村荘太かなにかとね。

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随筆家 森田たま

昭和08年、かの子は街で会った森田たまにいきなり興奮した口調で訴えた。
「私が今銀座を歩いてきたら、みんなこっちをジロジロ見て振り返ったりするのよ。
日本人ってなんて無作法で不愉快なんでしょう。
私、つくづく嫌になったわ。外国じゃこんなことは絶対になくってよ」
森田は返答に困り、つくづくかの子を見た。
背が低くコロコロ太ったかの子が、
断髪にしたオカッパ頭で白粉を白壁のように厚塗り真っ赤なイブニングドレスを着て
白昼の銀座を歩いていたのである。この時かの子は45歳であった。

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作家 川端康成

岡本さんは厚化粧のためにかなり損をしたが、
よく見るとあどけなくきれいで豊かな顔をしていた。
それが泣き出すと、いっそう童女型の観音顔になって清浄で甘美なものを漂わす時もある。

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作家 円地文子

岡本かの子を私が初めて見たのは昭和03年の秋であった。
かの子女史は近く外遊すると言っていた。身体はゆったり太っていたが
後に見た時ほど異常ではなく、髪は当時流行の耳隠しに結っていた。
濃い化粧としつこい色彩の着物が野暮ったらしく、東京出の人とは思われなかった。
みはったままの目を動かさず、話す時もゆっくり顔を動かしてから口を開いた。
声は甘く歌っているようで、ゆるゆると語るのが美しかった。

二度目にかの子女史に会った時は外遊中に断髪したらしく、
短い髪の毛が太った顔をいっそう丸く見せ肩も胸も盛り上がりくくれて見えた。
きめの荒い艶のない皮膚に濃く白粉を塗り、
異様に大きく見開いた目が未開は情熱をたたえて驚き続けているようにまじろがない。
数年前会った時の駘蕩としたおおらさかを少しも感じられず、
無知な老婆じみた我強さだけが印象に刻まれた。

それから少し経ったある夜、ある会合の帰り私はかの子女史と同じ自動車に乗った。
私たちはなにか小説の話をしていたが、
ふとかの子女史は私の方へ顔を差し寄せ他聞をはばかるように小声で囁いた。
「ねえ円地さん、小説を書いていると器量が悪くなりはしないでしょうねえ」
その声は心配そうにひそまって吐息のようだった。思い迫った様子で、
気味悪さが肩を並べているかの子女史のけばけばしく装った肉体から噴き出してきた。
かの子女史は自分の美貌を信じて自信ありげな言葉を言うのだろうか。

かの子女史を美しいとは私は一度も思ったことがない。
眼だけは強い感情があふれていてともかく異常に輝いているが、皮膚や体つきが粗野で
着物の好みにも着方にも知的なデリカシーがまるで感じられない。
幾色も俗悪な色の重なった派手な衣装をまとはれて恬然としている様子は、
グロテスクだといふのが嘘のない事実である。

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ベルリンにて
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作家 村松梢風

夏のことで、かの子女史は花模様の派手なワンピースを着て断髪無帽だった。
丈が低く丸々太っていてむやみに白粉を塗った顔が、
明るい夕日にさらされてちょっと滑稽なくらいな印象を与えた。
その後かの子女史とは劇場の廊下やなんぞでお目にかかったことがある。
劇場や東京会館あたりで会うと、この女性は美しくて異常な魅力があった。

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世界一周旅行帰国の船上にて
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評論家 亀井勝一郎

かの子と対座していると、私はいつも一種の鬼気を感じないわけにはゆかなかった。
例えば10年の甲羅を経た大きな金魚のように見える。古代の魔術師のようにも見える。
菩提樹の下に座り続けている老獪で残忍な神々の一人である。男でもなければ女でもない。
それを告げると非常に嫌な顔をされた。氏の口から軽い冗談や笑いがもれ始めると、
今度は可憐な童女の姿が現出するのであった。真実美しい童女である。

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by vMUGIv | 2012-06-02 00:00 | 大正
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