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by vMUGIv
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森鴎外の子供たち その2

◆長女 森茉莉
1903-1987 明治36-昭和62 84歳没


■前夫 仏文学者 山田珠樹 離婚 
1893-1943 明治26-昭和18 50歳没 

*辰野隆主宰の同人誌『玫瑰珠』(ロザリオ)のメンバーで、
ロザリオに参加しているフランス文学者の結束は固かった。

*茉莉と離婚後、浜子夫人と再婚


○姉 幾子 長尾恒吉夫人
○姉 愛子 斎藤夫人
○本人
○弟 俊輔
○弟 豊彦
○妹 富子


●珠樹と茉莉の子 爵(ジャック) 東大仏文科卒業 仏文学者 夫人の名は旭谷朝子か
●珠樹と茉莉の子 亨(トール)  東大農学部林学科卒業 平凡社編集者


■後夫 東北大学医学部小児科教授 佐藤彰 バツイチ同士再婚 離婚
1886-1965 明治19-昭和40 79歳没

*茉莉と離婚後、アメリカへ留学

○彰と前妻との子 弘子
○彰と前妻との子 登世子


◆明治36年 1月7日東京千駄木に生まれる。
◆明治42年 06歳 東京女子師範学校付属小学校入学。
◆大正02年 10歳 仏英和小学校へ転校。
◆大正04年 12歳 仏英和女学校へ進学。
◆大正07年 15歳 仏文学者山田珠樹と婚約。
◆大正08年 16歳 仏英和女学校卒業、結婚。
◆大正09年 17歳 長男爵生まれる。
◆大正10年 18歳 山田、ヨーロッパへ留学。
◆大正11年 19歳 ドイツに留学する兄於菟に付き添われて夫のいるフランスへ。
旅先で父鴎外の死を知る。
◆大正12年 20歳 夫婦で帰国。
◆大正14年 22歳 二男亨生まれる。
◆昭和02年 24歳 山田と離婚、子供たちを置いて実家へ戻る。
◆昭和05年 27歳 東北帝大医学部教授佐藤彰と再婚、仙台に住まう。
◆昭和06年 28歳 佐藤と離婚、実家へ戻る。
◆昭和10年 32歳 母親死亡。弟類と二人暮らしになる。
◆昭和16年 38歳 類が結婚、勝栄荘アパートに転居。
◆昭和19年 41歳 福島県に疎開。
◆昭和21年 43歳 二男亨と再会。
◆昭和22年 44歳 東京へ戻り、下宿生活。
◆昭和26年 48歳 倉運荘アパートに転居。長男爵と再会。
◆昭和32年 54歳 『父の帽子』出版。
◆昭和36年 58歳 『恋人たちの森』出版。
◆昭和38年 60歳 『贅沢貧乏』出版。
◆昭和48年 70歳 代沢ハウスに転居。
◆昭和49年 71歳 疎遠となっていた次男亨と鴎外忌で再々会、定期的な交流を持つ。
◆昭和50年 72歳 『甘い蜜の部屋』出版。
◆昭和51年 73歳 疎遠となっていた長男爵と弟類夫人の葬儀で再々会、時折交流を持つ。
◆昭和58年 80歳 フミハウスに転居。
◆昭和62年 84歳 6月6日死亡。


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森茉莉から新潮社編集者小島千加子への手紙 ※複数から抜粋

私には杏奴のように昔からあまり私を好きでないのに、姉を愛しています、
姉の文章を真っ先にいいと思ったのは私です、姉の本が出て嬉しいです、
孤独ですから訪ねてやってください等々、涙を浮かべて喋ることはできません。
もし将来私の出版記念会があると、妹が涙を出し愛する愛する愛すると喋るのが重荷です。
そんなようなわけで、いつも相当疲れさせられる。

明日は於兎邸に茉莉、杏奴、真章などが集まる。
杏奴がカッと怒るから類は排除したらしい。類の書く姉たちの像はちょっと恐ろしいが、
きょうだいが集まるという時に非常識である。杏奴はいちずに人を憎む。

山田珠樹が生き返って、外出やいろいろを怒るキバも折れて甘くしてくれれば
なぞとバカらしいことを考えました。
今の私なら、年で恋人を作る疑心暗鬼もないし、いつでも家で書いていて
外出はコーヒーと買い物の他は仕事の外出ですし、珠樹も怒らないかもしれません。

打ち明けて心を楽にするには室生犀星にお話するしかなかった。けれども
「いつでも苦しいことはお話できる」という安心な心持ちを喜ぶことで留めておこうと思い、
爵が去った時も、土地を取られたこともついに一口もお話しなかった。

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新潮社編集者 小島千加子

ことの起こりは昭和38年末のロマンブックス事件である。
『恋人たちの森』は昭和36年の初版以来版を重ね、次は新潮文庫に入るはずであった。
昭和39年頃の新潮文庫は、
新潮文庫に入ることがその著者の箔付けになると思えるくらいの力は備えていた。
茉莉くらいの実績では入るかどうか、贔屓目に見てもスレスレという感じであった。
それを出版部の片岡氏が早手回しに準備していた。茉莉にはもちろん了解済みであった。
ところが講談社がロマンブックスという新書版シリーズに『恋人たちの森』を
入れたいと持ちかけ、茉莉は版元たる新潮社に断りもなく承諾したのである。
ある日『ロマンブックス 恋人たちの恋』という広告が新聞に出てビックリした。

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森茉莉から新潮社編集者小島千加子への手紙 ※複数から抜粋

前便にお詫びに行くと書きましたが、考えてみたら川端康成氏の本とかと違い
新潮社全体がカッと怒る事件ではないので、かえっておかしいと思います。
いわば担当の片岡さんをお困らせした小さい事件だと落ち着いてみると思われます。
モリマリ氏が新潮社に詫びを入れる、これでは新潮社全体を一人の人間とすると
おヘソがお茶をわかしてしまうと思うのです。

暮れのことでは一度元の小島さんに戻り、また再び再発したのですから悩みです。
どんな人と思われ始めたとしても、いずれまた元の私として私の顔を眺めてくれるでしょう。
悲しみと同時に、小島さんをそう思い込ませた何かに向かっては怒りがこみ上げるのです。
この頃は私の力ではどうすることもできない力で、何かが二人の間に入り込んでいました。
それは事実は無いものだのだから、取りのけなくてはならないのです。
小島さんはゴチャゴチャしたことを考えるのをやめて
小説のことに力を入れて下さいお書きになりましたけれど、
私としてはこうのことはゴチャゴチャしたことではなくて生死の問題です。

辰野さんたちのことは、山田が秘密結社のような緊密な交友と交際で
辰野さんたちとうまくつきあっていて私はそこにはまるでタッチがなく、
辰野さんたちから見て私は遊びに行くと出てきてボンヤリそばで話を聞いている
山田の茉莉さんという愛すべき人物でした。
敵外部は山田のかかりで、茉莉はただ赤ん坊として存在していただけで、
ロマンブックス的事件の起こる場所も余地も完全になかったのです。
ただ山田の一種の病弱をカムフラージュするための
「夜がうるさい」「浮気の心配もある女」という山田の巧妙な中傷によって
「大悪妻」「醤油樽」「子供を捨てる冷血」などのレッテルがおされたのです。
それは事実を書いた『記憶の書物』を呼んで下さった小島さんは、
わかって下さっていると思っていました。
辰野博士たちはそんな上品な深窓の信、義に篤い人々ではないのです。
女の話をする時は土方のようで、ド淫売なぞと最も気の毒な下品な嫌な言葉に
ドをつけて強める時の口調は思い出してもゾッとします。

朝昼晩何度も何度も栓を抜いたり差したりするという意味で醤油樽と言われたり、
淫乱と言われたり、山田をを夜になると追っかけて困り果てさせた女と言われ、
昔知っていた人でも道で会うとむこうを向き、本当に悲観でした。
本当にどうして小島さんが私の書くこと言うことを信ぜずに、
私の敵の方にむしろ困らせられた人間像をご覧になるようになったのか、
なんの悪魔が小島さんに憑いてしまったのでしょう。
〔萩原〕葉子さんが私のことを心配して下さるのは嬉しいのですが、これからはあまり
葉子さんを私と小島さんとの間に絡ませないようにしなくてはならないと思います。
不幸は二人がなるより一人にとめておく方がいい。無論小島さんが何の疑いもない
葉子さんを、私のようになさるはずはないのはわかっていますけれど、
なんか不吉な風のようなものが葉子さんにまでうつってしまいそうに不安になるのです。

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新潮社編集者 小島千加子

私の手紙を見て大晦日の夕刻、いきなり私の家を訪ねて縷々釈明に及んだのである。
今まで茉莉の作品の長所を褒め、茉莉の気に入りそうな手紙しか書かなかった私が
手落ちを突き苦情を言ったのがこたえたようだ。
私が「手落ち」を責めたのを、自分の「人間性」について疑惑を持ち出したと感じ、
婚家を去ったのち山田珠樹一党のフランス文学者の間で囁かれた悪口を
私が信じるとは思わなかったなどと嘆かれたが、その悪口なるものは
茉莉の口やペンを通して知った以外私の耳にも目にも触れたことはないのである。
その仲間たちが何か書いた切れっぱしでもあれば見てみたいと思うが、
今現在なにも発見していない。茉莉の蟻の巣式迷走思考が働いて、Xさんに騙されたの
Yさんの策謀などと言い出すに至ってはまさに被害妄想のノイローゼである。
1ヶ月の間に9通もの手紙を続けざまに書いているのは、茉莉が自身についてよく言う
<ノンキで楽天家でしつこさがない>というのと全くうらはらの気質である。
これらの手紙は私を茫然とさせ、何と返事すべきか、うっかり書けば
茉莉の退行意識と不機嫌を上乗せしそうで手も足も出なかった。
茉莉には悪気はまったくない。けれど結果的にうっかりしているうちに、とんでもない
迷惑や厄介・難儀がもたらされる場合があるのをこの事件によって私は肝に銘じた。

『甘い蜜の部屋』完結編が出る前に、思いもよらぬ事態が起こった。
住んでいた倉運荘が老朽化して危険になったため、年内に取り壊すことになった。
おそらく半年ほど前に通達があったのであろうが、
私が聞いた時にはすでに残り3ケ月となっていた。
引越しは私と出版部の佐藤嬢とよく出入りしている廃品回収の人とでやったようなもので、
その後も大変であった。世事に関しては落第生の茉莉にとって、引越しは大ごとである。
「こんなことがあるんだったら、離婚なんてするんじゃなったわ」と茉莉は言った。
移転に伴う数々の手続きのほとんどが茉莉ではさばけないのである。
私も行ったが、多くは伊藤嬢と若手女性編集部員が走って行ってくれた。
私たちが全面的に引越しに関わったのがきっかけで、
その後何かにつけ茉莉の容貌が私への手紙・電話でもたらされるのが癖になった。
ハウスキーパーまがいのことまでやるのは編集者の仕事の埒外だが、
当時私たちは茉莉とその2人の息子との間は茉莉の妹弟以上に絶縁状態と思い、
茉莉は孤立無援の一人であると信じ込んでいた。

様々の用を頼まれた中でただ一つ私が応じなかったのが、
銀行からの現金の引き出しである。勘違い・思い違いを至るところで起こす茉莉であり、
こと現金に関する思い違いが生じては面倒である。
そろそろ通いの家政婦さんでも頼んだらどうですかと相談を持ちかけたことも
一度ならずあったが、家政婦は嫌いだとにべもない返事である。
思いがけない助けの神が現れた。茉莉の二男の山田亨氏である。
昭和49年の鴎外忌で二人の顔が合った。その前に友人からテレビに映った茉莉の
印象を聞かされていた亨氏は、放ってもおけないという気になって茉莉を訪ねたのである。
亨氏夫妻が十日に一度くらいのわりで来ては溜まったごみを捨て掃除をする。
いつしか訪れるのは亨氏一人になり、間隔も一月に一度と遠のくようになったが、
何といっても歴とした実の息子さんの出現は私たちの肩の荷を軽くした。
以降、金銭・銀行に関わる用事は亨さんの責任になったが、
日常の細々した用向きは相変らず私たちに降りかかっていた。

引越しも済み、茉莉は小説に熱中できるようになった。実はその頃、
私は茉莉に頼まれて手紙を携え茉莉の長男山田爵氏に会いに行ったことがある。
おおよそのいきさつは承知しているものの、現在どのような状態なのか少しも知らなかった。
過去の事情はともあれ、
成城に東大仏文教授として隆とした生活を営んでいる爵氏を目の辺りにして、
いざとなれば手を貸してもらえる人がいるという安心感を心の隅に抱いた。

再婚のことは何も書いてない。一つも書いてない。一言も言わないですよ、茉莉さんは。
あの再婚で茉莉さんは敗北を味わったと思うの。
間違いもなく敗北を味わったのよ、あの再婚は。
そういう所がね、心得ているわけ。自分のマイナスにしかならないような所は
人に見せない、書かない。再婚のことは随筆にも書かない。
見事に消したんですね。完全に抹殺した。それだけこたえたんですかね、
あまりにもつまらなかったっていう結論だったのか、よくわかりませんけれど。

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山田珠樹&茉莉
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ドイツにて 中央が珠樹&茉莉
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by vMUGIv | 2013-12-02 00:00 | 明治
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